KAIRI TSUJI
辻 海里
27歳 |
自営業 |
埼玉県出身 |
FTM |
#010 2016年10月撮影
僕にとってのカミングアウトは心臓が口から出て来そうなくらい怖いものでした。
周りの自分を見る目が変わることよりも、周りの人がどう変わってしまうのかが一番怖かったです。
初めてカミングアウトしたのは中学生の時でした。
そして予想通り、腫れ物に触るかのような反応に変わるか、
テレビの影響だろうと笑われるかの2つに変化しました。
それからは更にカミングアウトについて恐ろしくなったものです。
学校を卒業後、会社に入社してもそれは変わりませんでした。
「なぜ?」が止まらなかったのを覚えています。
別に”理解”はしてくれなくてもいい。ただありのままの僕を受け止めて欲しいという思いでいっぱいだったのです。
悔しくて、悲しくて、寂しくて、
でも誰にも言えなくて、
唯一何でも言えたのは聴導犬のサスケだけでした。
サスケは静かで優しい目をして、いつも僕のそばにいてくれ、
聴覚障害の面だけではなく、心のケアとサポートをしてくれていました。
唯一無二のパートナーであり、親友でした。サスケがいなかったらとっくに僕の心は壊れていたかもしれません。
それくらい僕にとってはこの世界は生きづらかったのです。
そして26歳の時に転機があり、会社を辞めて自営業を始めました。
その自営業のやり方を教えてくれるスクールで師匠や兄貴達、そして同じく志を共にする仲間ができました。
彼らにはありのままの僕を見せられましたし、そんな彼らもありのままの僕を受け入れてくれました。
僕もありのままの彼らを受け入れました。
でも心の底には一つ、しこりがずっと残っていました。
言いたいけれど言えない。そんなジレンマに1年程モヤモヤしていたころ、
「この仲間達なら受け止めてくれるかも」と思い、思い切って師匠にカミングアウトをしました。
すると師匠は「へぇ、そうなんだー」と。
他の仲間達も「あ、そうなの」というあまりにも呆気ない反応だったのを覚えています。
拍子抜けしてしまうくらいさっぱりとしたものでした。
けれどこれが、僕が長年求めていたものなんだとその時気づき、涙が止まりませんでした。
仲間達の中には、会うなりハグをして「よく言ってくれたね」「大丈夫だよ、海里は海里だよ」と言ってくれた方もいらっしゃいました。
学校や会社にいると非常に狭い世界に囚われがちです。
少しでも否定されてしまうと世の中の全てに否定されてしまった感覚に陥りやすいと思います。
けれど、大丈夫。
世界はとても広くて、
必ず自分をことを両手広げて抱きしめてくれる人達がいます。
合言葉は「死ぬこと以外かすり傷。だから絶対大丈夫だよ」です。
笑っていれば、笑い返してもらえるし、
相手を受け止めれば、相手も受け止めてくれます。
相手は鏡だと思って行動するようになると、世界が広がります。
一人でも多くの方が「君は君だよ」とハグしてくれる人と出会えることを祈っています。