Shin Suzukake
鈴掛 真
29歳 |
歌人、小説家 |
愛知県出身 |
ゲイ |
#002 2015年8月撮影
短歌の作家として初めて書籍を出版することになった際、セクシュアリティを公表しようと決意した。
カミングアウトは、決して必要ではない。LGBTを隠しながら名声を博した作家や芸術家は多い。
なぜ短歌に、わざわざカミングアウトが伴うのか? 注目を集めたいだけじゃないのか? そう揶揄されたこともあった。
むしろ、逆である。ゲイであることを隠した方が本は売れる。その方が多くの共感を得やすいからだ。ゲイはメディアにも取り上げられにくい。そのせいで取り扱ってくれない書店もあるだろう。
職種がどうあれ、多かれ少なかれ、カミングアウトにはあらゆるリスクが付随する。セクシュアリティを隠した方が、兎角に人の世は住みやすいのだ。
にもかかわらず、僕はカミングアウトした。なぜか?
「セクシュアリティを隠した方が住みやすいこの社会ごと変われば良い」と思ったのだ。
LGBTを自覚したとき、まず誰しもそれを隠そうとする。LGBTにとって人の世は住みにくいことを知っているから。自覚と同時に、秘密を抱えるのだ。
まだ僕がクローズだった頃、「みんなと同じように生まれ、同じ人間として生きているのに、なぜこんなにも重い秘密を抱えなければいけないのだろう」と悩んだ。では、その秘密はなぜ重いのか。もとより、セクシュアリティを秘密にしなくても住みやすい社会になれば良いのではないか、と。
ならば、言葉を書くことしか取り柄のない僕だけど、ほんの少しでも社会を変える力になりたいと思った。
わざわざカミングアウトしたのではない。それまで重い秘密だったものを、ただの事実にしたかったのだ。
ひとりの力では社会は変わらない。けれど、ひとりひとりの力が集まれば。
そんな思いを詠った短歌をひとつ。
国中に 大停電を 巻き起こし 二人でずっと 話していよう
鈴掛真