Ayumu Yasutomi
安冨 歩
52歳 |
大学教授 |
大阪府 |
MTF |
#004 2015年11月撮影
幸いにも私は、つれあいが「猫でも犬でも人でも、生き物は、やらないと仕方がないことは、やらせないと仕方がない」という哲学を持った人だったので、自分が女性装しないではいられないことに気づいたときには、そのまま自然に移行することができました。親や親戚とは、既に縁が切れていましたから、関係ありませんでした。その意味で「カミングアウト」したという意識がありません。
もちろん外でウロウロしていてジロジロ見られることは多々ありました。これを「白い目」と呼ぶのだな、と生まれて初めて実感しました。そして、ちゃんとした人は、たとえ女性装していても、私のことをジロジロなんか見ないのだ、ということも学びました。そういう失礼なことを平気でする人は、内面に深い傷と苦悩とを抱えた哀れな人なのだ、ということを理解していたので、「白い目」に怯えることもありませんでした。
もし私が「白い目」を避けるために、「普通の格好」をしたなら、私は自分自身を裏切り、そのことによって、自分の中に怒りを溜め込むことになります。私は弱い人間ですから、その怒りはやがて、どこかから溢れることでしょう。それは往々にして、他人への暴力となってしまいます。私はそのような暴力を振るいたくなかったので、自分にふさわしいと自分が感じる格好をすることにしたのです。
そして興味深いことに、私が女性装するようになって、私自身は以前よりも遥かに優しい人間になれたと思います。そのせいか、周囲とのトラブルも随分減ったと感じています。更に、これまで私の研究に関心を示さなかった人々が、続々と興味を持つようになってくださいました。こうしてレスリー・キーさんに撮影してもらうことまでできました。
自分を抑え込むことは、自分をも他人をも傷つけることになります。もしあなたの環境がそのような暴力を強要するのであれば、そこを離脱してくださるように切望します。そしてそれが難しければ、勇気をもって、助けを求めてください。それが世の中を良くするための大きな一歩なのです。