Takahiro Inami
稲見 隆洋 (左)
47歳 |
介護福祉士 |
東京都 |
ゲイ |
#002 2015年8月撮影
初めてのカミングアウトは。
20年前、待ち合わせした親友に意を決し「僕は同性愛者なんだ」と告げた。
と不意に、目の前に広がる駅前交差点がぼやけ、光と影が反転し、行き交う人々も車両も建物も渦となって蠢き、生き物のように嘲笑とともに神経系へ雪崩れ込んでくる…。
困惑する友人に対してかろうじて言葉を紡ぎながら、震える心の中で「間違ってなんかない、間違ってない、間違っていない…」と繰り返し繰り返しつぶやかずにはいられなかった―。
カミングアウトは、僕にとって、まず何より知覚の危機として、そして悪意をついに顕わにした世界との闘争として始まったのだった。
そして今。
緊張をたたえながら、僕の表情は、一仕事終えたかのように穏やかだ。言葉を選び空気を読まなければならない苦悩に迫られることもなく、透明な沈黙に守られた一幅の写真として、僕は誰かにカミングアウトする。それはいったい誰に?
それはあなたに。
あなたというまだ見ぬ未来の友に、僕は無言のまま告げよう。いったい何を?
たとえ世界との戦いは終わったかもしれなくとも、世界との和解はまだ何も完了などしてはいないから。そしてこの和解は誰か一人の力でなしとげられるものではないから。
だからこそ、私たちは仲間とともに旅に出る。
答えのない絆と名前のない色が輝く栄光の歌を探す旅へ―。
すべてのものが『さよなら』を言ったことがないかのように歓待される明日を探す旅へ―。
物語は終わっていないから、そんな旅へのいざないとして、私はあなたに告げよう。「初めまして」、と。
Masaki Inaba
稲場 雅紀 (右)
46歳 |
団体職員 |
京都府出身 |
ゲイ |
#002 2015年8月撮影
私が親にカミングアウトしたのは24年前。とても褒められたものではありませんでした。時間をかけて、お互いに新しい関係を紡ぎだすためのカミングアウトではなく、私だけのための、私が目指す道に歩みだすためのカミングアウトだったのです。一方、私の周りでは、同世代のレズビアン、ゲイたちが、試行錯誤しながら、よりよい関係を作るためのカミングアウトに取り組んでいました。
四半世紀近くの年月が経ちました。いま、日本社会とLGBTの間に、新しい関係が築かれつつあります。積み重ねられた、多様なカミングアウトの経験が、一つの総和として表れようとしています。一歩の歩みは小さくても、無駄ではありません。
「もともと地上に道はない。歩く人が多くなれば、それが道になるのだ。」(魯迅「故郷」竹内好訳)