Yayoi Takeuchi
竹内 弥生
20歳 |
茨城県 |
FTX |
#004 2015年11月撮影
御茶ノ水にある小さな喫茶店で、まだ出会って間もない友達に、自分がXジェンダーであることを伝えたことがある。そのとき、口はからからで、手は冷たくて、話しだすのに時間を要したので、長い沈黙が私たちの間に流れた。外はもう夜を迎えていて、このまま夜が明けることはないんじゃないか、とそのとき思ったのを覚えている。
もし、伝えたらどうなってしまうんだろう、と伝えた先のことを想像してみた。悪い噂が流れるかもしれない、伝えなければよかったってなるかもしれない、と思い浮かべるのは悪いことばかり。けれど、勇気を振り絞って「Xジェンダーなんだ」と伝えたら、相手は「そうなんだ」と言った。それから、短い話をして「甘いものを食べようよ」と落ち着いた。想像したことはなにひとつ起きなかったし、意外と単純なことだった。
その日をきっかけに同級生に伝えていくことが増えた。最初は怖くてたまらなかったけれど、伝えていく回数を重ねていくと、平気になっていった。気がついたら呼吸をするように、伝えたいと思った人には言えるようになっていたし、私の生活の一部にもなっていた。
そこにたどり着くまで長かったけれど、その長い道のりを歩いて行けたのは、自分がXジェンダーであることを伝えてきた人たちが支えてくれたり、応援してくれたから。まだ知られていないXジェンダーだから特別なことが言えないといけないのかな、と重い荷物を背負っていると、見かねた友達が、そんなことはしなくていいんだよ、と取り除いてくれた。伝えた相手の何気ない一言で傷ついたときは「好きなものを飲みながら、明日はなにをしようかなあ、なんてことを考えよ」って楽しいことを言ってくれた友達がいた。きっと一人だったら、ここまで歩くことなんてできなかった。もし一人だったら、孤独で世界に打ちのめされて、夜は明けなかっただろうな、と今になって思う。伝えたから、あたたかい今がある。