OUT IN JAPAN

あなたの輝く姿が、つぎの誰かの勇気となる。
main-image

TSUYOSHI OMI

近江 剛

48歳
元画廊オーナー
栃木県出身
ゲイ

#009 2016年4月撮影

人生において誰にでも忘れ得ぬ日がある。8月22日 僕は台北のホテルのロビーに居た。5月頃から体調を崩し入退院を繰り返していた友人を見舞うためであった。いつも時間厳守する彼にしてはもう30分も遅れている。「どうしたのだろう?仕事が忙しいのだろうか?」沢山の人が交錯する広いロビーにスーツケースを横に、ポツンと一人行き交う人達を眺めていた。そして時間は経ち、日付も変わった。「どうしたのだろう?携帯も自宅の電話は繋がらない。」諦めて部屋にチェックインし連絡を待つことにした。しかし3日間の滞在の中、とうとう彼は姿を現さなかった。

帰国し、彼の友人を通して彼の姉から訃報メールが届いた。待ち合わせの日には彼はもう、自宅で息絶えていたのだ。早春の頃 日本で会った彼はあんなに元気だったのに…その彼がもうこの世にはいない…この信じがたい現実は鋭く僕の胸に刺さった。

裕福な家庭に育ちながら身体にハンディを背負いながらも社会の役に立ちたいという気持ちが強かった彼の口癖は「生きている間に自分に幸せだと思う事が起こった時は、その幸せを他人にも分けてあげなければならない」と言っていた事を思い出す。何ヶ国語もの言葉を話し、全ての面においてスマートかつ愛情に溢れていた。そんな彼を僕はとても尊敬していた。人生の中で彼のような人物と出会えた事がとてもうれしかった。

40歳と言う若さでの死は僕に何を語りかけているのだろう…生きていればもっともっと社会に貢献したであろう人物。この地球上に同じく生を受け同じ時代を過ごす。僕達は平和を愛し、助け合い、愛情に溢れた生活をして社会を良くする努力をしなければならない。

天国の彼は僕にそう語りかけていた。

5年前の東日本大震災の年、やむなくカミングアウトすることになった。秘密にする事に疲れてしまったので、オープンにする事にしたが、それによって晴れやかな気持ちになった。そして僕の心の中で、今も彼が生き続けている…