HARUHI HIROSE
広瀬 晴日
51歳 |
フリーランス校正者 |
神奈川県出身 |
FTX/パンセクシュアル |
#015 2018年5月撮影
15歳の誕生日を迎えたときの、あの深い落胆と暗い嘆息を今もはっきり覚えている。
15年も経ってしまった、生きすぎた、もう終わりにしよう──。
物心ついたときから人と決定的に異なる自分を知っていた。それはいつも私を希望と反対の方向へ押しやり、私のやりたいことを阻んだ。「女の子だから」諦めなければならないものは、私の場合人生そのものだったから、この男女二分化社会では自分は望むようには生きられないのだと思い知るのに15年は十分すぎる時間だった。
それから長いこと中途半端に生きてきた。男らしくするのも女らしくするのも性に合わなかった。何でも中庸が自分のスタイルと思いながらも、中途半端という言葉が嫌いだった。
けれども、時代とともに社会は確実に変わっている。性のありようを表す言葉も多様になってきたように。
「中途半端でいいじゃない。それが晴さんなんだから」年下のFtMにあっけなく言われた一言が解放のきっかけだった。
男と女が大多数の中、自分らしく振る舞うなんてできないことには変わりない。でもそのことはもうそれほど私を苦しめてはいない。幼児の頃に読んだ童話の洞窟の蝙蝠は、動物の仲間にも鳥の仲間にもなれないという点でまさに自分そのものと感じてきたが、しかし私はもう暗い洞窟の奥で光に満ちた外の世界を羨んではいない。蝙蝠は蝙蝠、動物にも鳥にもなれないけれど、蝙蝠のまま森の仲間にはなれると知った。
光射す方へ──。
あなたはみんなと同じ地平にいるよ。決してマイナス地点なんかじゃない。
気がつけば、何人も、エールを送ってくれる人達がいた。
生まれたことを、生きてきたことを、初めて心から祝福したいと思い、昨年、50歳にしてLGBT成人式に出席した。
私はここにいる。
私の人生で間に合わないことも、次の世代にはきっとできるだろう。
君よ
大いなる夢と情熱を捨てるな
君が生きている
──それだけでそれはひとつの詩(うた)になる