TAKUMI YAMASAKI
山崎 拓海
51歳 |
塾講師 |
東京都出身 |
FTM/アセクシュアル |
#015 2018年5月撮影
ぼくの場合、カミングアウトするまでもなく「多分この人、FTMなんだろうな」というのは、ぼくの様子から周りの人たちは気づいていたと思います。ただ、わざわざこの場をお借りして自身のアイデンティティを明確にしたかったのは、現在のぼくが人生の残り時間を意識せざるを得ない状況になっていることが大きな理由の一つです。
しばらく前、肺癌が見つかり患部の摘出手術を受けました。医学・医術の進歩のおかげで癌は今や死ぬ病気ではなくなりつつありますが、それでも主治医から5年後生存率の数字を聞いたとき、それまでずっと先の話だと思っていた人生の終い支度を、すぐに始めようという気持ちになりました。
遺していく人たち、殊更、ぼくが関わってきた若者たちや子どもたちに、若い頃のぼくのような迷いや葛藤で神経をすり減らしてほしくなくて、今のぼくが様々な人々との関わりの中で、お互いを認め合い、支え合いながら生かされている姿を見てもらいたいし、自分もいつかそんな風に生きられるのではないかと希望を持ってもらいたかったのです。
子どもたちは千差万別、いろいろな環境の中で生きています。自分のジェンダーやセクシュアリティについて迷ったり悩んだりしているとき、自分をいちばん理解してくれるはずの家族が、何も理解しようとしないどころか「戸籍の性別で」「異性を恋愛対象とし」「普通に」生きるように「矯正してやる」という圧力をかけてくるのがつらい…、といった話を聞いたのは一度や二度ではありません。そうした環境にある子どもたち・若者たちに「一人で悩まないで」「周りの大人に相談して」と声をかけたところで何も解決しないですし、逆に追い詰めてしまうことになります。
また、都市部と地方の情報格差・意識格差の問題もあります。子どもたち、若者たちに必要なLGBTs等の情報を盛り込んだ性教育・人権教育を行うだけでなく、ジェンダーやセクシュアリティに迷いや悩みを抱えた子どもたちにきちんと関われる大人たちを大量生産することこそが今は急務ではないかなとぼくは考えています。
末筆になりましたが、これからカミングアウトをする人に。ぼくはあなたたちの勇気に敬意を表し、声援を送ります。そして、あえてカミングアウトしない人にも。生き方・在り方は、人それぞれです。ぼくらは多様性の中で生かされています。カミングアウトする自由、カミングアウトしない自由、どちらも同等にリスペクトされ、守られる社会の実現を切に願います。